万物理論

万物理論 (創元SF文庫)を読んだ。

万物理論 (創元SF文庫)

万物理論 (創元SF文庫)

主観的宇宙論三部作のSFとしての柱は宇宙消失 (創元SF文庫)量子力学順列都市は情報、という感じだったが、この万物理論は名前の通り、宇宙の最も根底にある法則である万物理論(Theory of Everything, TOE)が主題。しかしイーガン読みにとってはお約束の人間原理が絡んでくることで、TOEの更に下層にあるものが……という話。
イーガンの長編らしく、前半は生物工学の発展した時代におけるジェンダーアイデンティティ人間性などに関わる小ネタが満載。また、作中の無知カルトの書かれ方も面白い。TOEという最も根源的な概念を扱っているだけあって、後半の展開での既成観念の揺さぶりようはすさまじい。
ただ、作中で焦点を当てられている仮説の証拠が表れるまで時間が掛かるせいで、原題でもあるディストレスの真実が明らかになる辺りまではいまいち物語に引き込まれなかったように思う。主人公も最後の最後まで疑ってばかりだったし。あと汎が三人称単数中性の代名詞(彼、彼女に相当)*1だと分かるまでなんのこっちゃ、と思ったり。
これで邦訳されているイーガンの長編は全部読んだことに。TeranesiaとSchild's Ladderの邦訳が待ち遠しい。
あと、やっと涼宮ハルヒの憂鬱は萌え万物理論だ、と言われる理由が分かった。人間原理による宇宙の創造だとか、フレアだかアレフだかとか、機関の暗躍とかの雰囲気は確かに共通してる。

*1:原書だとve, vis, verらしい