イーガン攻略中

グレッグ・イーガン長編1作目の宇宙消失 (創元SF文庫)を読んだ。

宇宙消失 (創元SF文庫)

宇宙消失 (創元SF文庫)

ナノマシンを使った工学的な脳の改造である「モッド」が商品として普及した近未来にて、量子論観測問題*1の答が明らかになったり、主人公がアイデンティティについて苦悩しまくったりする話。
「モッド」の説明だけ見るとなんだかサイバーパンクな印象(読んだこと無いけど)を受けるけど、あくまでこの作品ではモッドは道具、もしくはイーガンでおなじみのアイデンティティの問題を喚起させるためのネタのようだ。この作品が書かれた1992年にもなると既にサイバーパンクも後期だし、インターネットの前身のNSFNetも広く知られていただろうから、サイバーだけではセンスオブワンダーを与えられなかったのかもしれない。ってなわけで、SFとしては量子論における重ね合わせと収縮にまつわる観測と意識の問題が主題、小説としてはアイデンティティが主題だ。
そもそも量子論というものが簡単には信じがたいものなので、それを深く掘り下げて書かれたこの作品がセンスオブワンダーにあふれているというのも当然な話。エヴェレット解釈の並行世界と言う言葉は完全に俗化してるけど。
しかし気になった点が一つ、原題の"Quarantine"(隔離、検疫)と比べると邦題の「宇宙消失」は内容と合ってないような気がするんだけど、あとがきに書いてあるようにもっと深い意味が込められているのかな。
これを含むイーガンの初期の長編はあまり面白くないという人も多いようだけど、わりと楽しく読めた。まともに学んだこともない量子論について少しイメージが浮かぶようになったのは収穫。


最近ライトノベルを含む小説しか読んでないから積んでいる小説以外の本が20冊を超えた件についてそろそろどうにかしないといけない。

*1:シュレーディンガーの猫の問題としてるところ