当面の目標はイーガン制覇

グレッグ・イーガンの短編集である祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)読了。

祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)

祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)

今まで順列都市ディアスポラと長編だけ読んでいたけど、イーガンは短篇がうまいと書かれていたので早速読んだんだけど、噂は本当だったようだ。作品ごとに1つのアイデアを深く突き詰めているし、ミステリー的な構成を使うことで短くとも小説として完成されているように思う。

脳は除去されて処分され、無菌培養された海綿状組織と交換される。

とか結構えぐい話があるのは読む人を選ぶかもしれないけど、受け入れがたい話ほど価値観を揺るがすというのはガリレオ以来の事実っぽいので、生物工学のような最先端かつ倫理的に微妙なネタを使うのはアイデンティティを最も重要な主題にしているイーガンにしてみれば当然のことなんだろう。
表題作の「祈りの海」は「ディアスポラ」を読んだあとだったので、途中からは<ディアスポラ>した《カーター-ツィマーマン》ポリスの1つの未来として読んでしまい、「死ぬ前に全ての自分と融合しなければいけないオーランドはどうしたんだろうな」とか「銀河を征服するのは、宇宙船に乗ったバクテリアのすることって言ってたのに惑星の生態系壊すなよ」とか思いながら読んでいた。でも読んだ後で、もしも「ディアスポラ」の前に「祈りの海」を読んだ場合は何を思って読んだのだろう、ということが気にかかり、さらにはエヴェレットの多世界解釈が真実な場合にプランク時間ごとに無限とも思える数の可能な分岐をした世界の中に存在するであろうディアスポラ」を読まずに「祈りの海」を読む無限とも思える数の自分に対する感情が湧いてきた。これはもしや世に聞くイーガン脳というやつの兆候かもしれない。